クライオニクス・マガジン(第23号 2001/3)
今月は久々に長めの訳文があります。JCAともつきあいの
深いPaul Wakferの主宰するプロジェクトHSCPの進捗報告です。
(HSCP : Hippocampal Slice Cryopreservation Project)
その他、日本の小さな記事二つです。
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HSCPの進捗報告と諸計画について
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Asilomarミーティング前までに、HSCPは、統合された大型神経
系統の冷凍保存技術(これまで科学雑誌などにまったく公表さ
れていない最新技術)を大幅に改善することができた。脳の
海馬薄片を普通のグリセロール(脳の冷凍保存に最適)を使っ
て様々な方法で凍らせると、ドライアイス温度から解凍された
後の生存率の変動が±5%程度に抑えられることがわかった。
21CMが新しく開発したガラス化溶液(最も単純かつ基本的な
溶液Veg)でガラス化させた海馬薄片は、切り取ったばかりの
未処置薄片の53%のカリウム/ナトリウム輸送容量で再生した。
これによって、「冷凍/解凍を経た薄片は氷の形成/溶解時
にかなりの構造的な損傷を被るが、ガラス化と加温によって
そういった損傷がなくなると思われる」という仮説が強力に
裏づけられた。このため、新しい手法を使えば、従来の手法に
比べて機能が大幅に再生し、構造もかなり保護できるように
なると思われる。
Asilomarミーティング以降は、この成果をさらに改善しようと
いう試みがなされてきた。そして2001年1月9日、ガラス化/
復温を施したラット海馬薄片の生存率を約66%にまで上げること
ができた。この種の実験では、より高度なガラス化溶剤を使用
しなければならず、それには凍結保護物質の追加・除去方法を
さらに改善する必要があったため、研究は思ったよりも遅々と
して進まなかった。損傷を受けた薄片は浸透圧、温度、時間
などに影響されやすいので、従来の追加・洗浄方法方法はもは
や決して好ましいとは言えなかった。また、浸透までに時間が
かかる非浸透性の凍結保護物質もあるため、薄片を高濃度の凍結
保護物質に長時間浸してガラス化させなければならなかった。
これまでは平衡時間(equilibration time)は10分間しか取って
いなかったが、これだけでは薄片を-130度まで冷却してから加温
しても、望むような結果が得られず、結果にもかなりバラツキが
あった。しかし、平衡時間(equilibration time)を20分間まで
延ばすと、ガラス化後の再生率が66%にまで伸びた。ガラス化前に
凍結保護物質に浸す時間をさらに延長すれば、あるいは溶液の濃度
を調節して平衡(equilibration)をスピードアップさせれば、
さらに若干改善できるかもしれない。
現在、脳薄片の機能再生率は66%となっているが、これは、ウサギ
の腎臓薄片をガラス化/復温させた際のK/Na比の回復率
(21CMで行なった実験による)と偶然にもまったく同じ数字である。
移植およびin vivo再生後に細胞が長期間生存するには、この率で
十分だと間接的に示す証拠もある。ラットの海馬薄片のK/Na比を
上げるために、凍結保護物質に浸してから長期間培養し、自己修復
が見られるかどうかを観察してみたが、8時間以上培養しても、
明白な改善は認められなかった。「66%の再生」ということは、
34%の細胞がすべて失われて66%だけが完全に生き残ったということ
ではない。むしろ「各細胞の機能の66%が再生した」と我々は考えて
いる。電子顕微鏡級の固定剤(electron microscopy grade fixative)
によって修復された薄片もある。今後は、これらの薄片の構造を調べて、
すべての細胞における損傷の有無を確認したり、ガラス化/復温後も
脳薄片の構造に変化が見られないかどうかを確認する。現時点では、
これらの標本がまだ調査されていないため、細胞構造に関する検査結果
は出ていない。今後、研究が進むにつれ、この溝は埋まっていくだろう。
ガラス化後の細胞構造維持についても、さらなる研究結果が出てくる
はずである。
注)予備知識がない方に読んでいただくのは難しかろうと思いましたが、
あえて訳文を掲載しました。「完全な保存」までの道のりの長さ
を実感いただければ幸いです。
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三菱商事 ナノテク投資ファンドを創設
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三菱商事は4月にも、クライオニクス関連のキーテクノロジー
であるナノテクノロジー分野を対象にしたファンドを創設する。
規模は1億ドルを予定しており、ナノテクを応用した新素材、
医療技術などの開発を手がけるベンチャー企業に投資する。
ナノテク応用製品の国内市場は2010年には19兆円に
達すると予想されている。
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ハルペリンの”The First Immortal”の翻訳者決まる
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選定が遅れていましたが、角川から出版が決まっている
“The First Immortal”の翻訳者が決まりました。このSFは
13万語という大作で、翻訳を引受けてくださる方がなかなか
見つかりませんでした。訳に9月までかかるそうで、出版は来年
になる見込みです。引受けてくださった方は内田昌之さんです。
最近ではロバート・J・ソウヤーの「フレームシフト」などを
訳されています。なお、ハリペリンの処女作(”The First
Immortal”は2作目)の”The Truth Machine”も角川からでています
(邦題は「天才アームストロングのたったひとつの嘘」)
出版のときはハルペリンさんを日本に招く予定です。
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